夏から、秋を通り過ぎて冬になろうという頃。
遥護は、カギが閉められていないドアを平然と開けて部屋に入ってきた。
「・・・また寝てたのか?」
ベッドに横になっている私を見て、遥護は呆れたように言う。
片手にはスーパーの袋が下がっているのでどうやらまた食材を買ってきてくれたらしい。
頼んでもないのに。
「寝てて悪い?疲れたし。お腹減ったし。食べ物買いに行く気力なんてないし。だから、色んな物を紛らわす為に寝てた。」
私がベッドから動かずに、遥護を上目遣いで見る形で気だるそうに言うと、
「・・・この間作り置きしておいたカレーは?」
「無論、もう食べた。それ以降ほとんど食べてない。」
「君ねぇ・・・自分で食べ物くらい作ろうよ・・・」
さらにがっくりとうなだれて言った。
「食べ物を作ると言う行為は私に不快感を与えるし、私が作った物はとても食べれた物ではないので、作るつもりはない。以上。」
「・・・努力すると言う言葉を知ってる?」
「知ってはいるけど、しようという考えには繋がらない。」
「はぁ・・・要、女の子なんだからもう少しちゃんとしようよ・・・台所借りるよ」
台所の戸棚からフライパンやらなんやらを出し始める。正に勝手知ったるって感じだ。
もちろん彼はこの部屋の住人ではない。
一方私は、ここは自分の部屋なのに何がどこに入っているかなんてほとんど知らない。
そもそも初めはこの部屋に物などほとんどなかったのだ。
休眠する為のベッド、食料保存をするための冷蔵庫。それだけだった。
なのに、遥護がどんどん普通日常生活に必要らしい物を持ってきたのだ。
相当の世話焼きだ、こいつ。
せっせと働いている彼の後ろ姿を見て、心の中だけで呟いた。
でも私はそんな彼が嫌いではなかった。
嫌いになんて、なれるはずない。
比良山遥護。
彼は仕事仲間であり、高校のクラスメートでもあった。
と言ったって私はほとんど高校には行ってないわけだが。
黒い、長くもなく短くもない髪の毛。身長は平均的な170cmくらい。
一見、どこにでもいる普通の学生。
だが彼は高校生の模範と言えるかもしれない。
着飾らないし、かといって嫌味な感じもしない。
先生達や友達への受けも良い。それになにより、
彼は―――ひどく頭がよかった。もう病気なんじゃないかと周りが思ってしまうくらいに。
彼を知るものは皆「神童」と呼んだ。
ならば、何故彼が都内1の進学校に行かずに平凡な高校に通うか。
私はその理由を知っていた。なぜなら――――・・・
「そういえばさ」
思考を巡らせていたら、唐突に遥護が口を開いた。
フライパンをリズミカルに動かしている。
この匂いからすると、炒飯を作ってくれているらしい。
「要、テレビ見た?」
「ん?あぁ、まぁ少しはね。」
部屋の端においてあるテレビ。これも遥護が持ってきたものだ。
なんでも社会状況はきちんと把握した方が良いとかなんとかで。
もしかして、これ私の為に買ったのか?と聞いたら、いや、間違って同じやつ買っちゃったんだよ。と素気なく答えた。
こんな大きい物間違って買うわけあるかバカとそのときは思ったが口には出さなかった。天才でもウソのつき方を知らないらしい。
彼の世話焼き精神はほとほと呆れるものだった。さっき彼が私に呆れていたくらいには。
「じゃ、連続行方不明事件知ってるよね?最近はその話で持ちきりだし。」
「あぁ、そういえばそんな話もあったような気がしないでもない。」
連続行方不明事件。
殺されているか殺されていないか分からない。
ただただ行方不明。
しかも何人も。何の手がかりもなく、ほとんど事件は迷宮入りしている。
まるで神隠しにあったような―――。
「あれ、こっち方面の話かもしれないってさ。」
遥護は作り終えたチャーハンを2枚の皿の上に綺麗に盛り付けて、ベッドの前にあるテーブルの上に置き、床に座った。
「・・・ふぅん・・・こっち方面・・・ねぇ・・・」
いただきますと小さく呟き、スプーンでチャーハンを食べる。
相変わらず美味しい。
「・・・そういうわけで、久しぶりに僕達が仕事に呼ばれたわけですが。どうする?今回は少し危険っぽいよ?」
「危険も何もあるか。毎回危険だろうが。」
「うーん・・・そうなんだけど。今回はもっと危険なんじゃないかな?殺人じゃなくて行方不明なんだし。」
〈連続殺人〉ではなく、〈連続行方不明〉。
この差は意外と大きい。
殺人であればただ殺すだけだ。そんな事は誰にでも出来る。
死体は隠すが、見つかってしまうような場所にしか隠せない。
そのような「隠す」能力が低い。つまり頭が悪い。
こう言うと身も蓋もないが、行方不明になった人たちはきっと殺されているだろう。
その死体達を行方不明にしているのだ。
死体は動きはしないが、腐臭が出るので見つかりやすい。
しかも連続。大量の死体が出るのだ。
それらを確実に〈行方不明〉にする。
それは「隠す」能力が高いということだ。つまり頭が良い。
下手に頭が良いやつを敵に回すと面倒なことになるのは私の経験上分かっていた。
「うー、面倒臭いかも・・・」
私はぼやく。
「じゃあ、断る?それでもいいけど、社長に断るときは要も一緒に来てくれよ」
「う・・・。そっちのほうがめんどくさい・・・からやるよ、その仕事。ちょうど金が欲しかったところだし。」
「え、要にしては珍しいね。何か欲しい物とかあるの?」
遥護は少し意外だと言う風に、目を軽く見開いた。
確かに私は、物が欲しいと言ったことは殆ど無い。
欲しいと思っても、思うだけに留まる事が多かった。
「別に・・・ちょっと、 ね」
「ふうん?」
さして気にした感じでもなく、自分の作った炒飯を彼は口に運んだ。
続きが書けない。